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【泥】

さて、ここにひとつの絵がある。

絵の描かれているキャンバスは、未来への様々な変化と可能性を求めて、少し目を離した隙に形状を変える不思議な代物だ。
その生成のキャンバスに、ムラなく塗られた黄色い絵の具。絵の土台となる重要な色だ。
そしてキャンバスと同じように色々に変化するばーちゃんだったり、白熊だったり、長靴だったりを溢れ出てしまいそうな程勢いよく描いてある。
それは見事な傑作であった。

ふと、キャンバスのほんの隅、ポツリと落とされた一点の染みを見つけた。

ある者はその染みには気付かずこの絵を眺め、ある者は染みを気にしてどうにか消えないものかと知恵を絞る。
見る者を右にも左にも振るこの黒く小さな点は、今はまだモゾモゾとしているだけであまり動きを見せない。
私はその点は、一体なにで出来た染みなのかと近づいてみる。墨汁か、インクか、はたまた炭か。よく目を凝らす。
しかし、他の描かれている題材と違って見れば見るほど胃の中からなにかが溢れ出るのだ。嫌悪感とも冷めたものとも取れぬなにか。
一体この他の絵と少しも噛み合ない「違和感」の染みの正体はなんなのだろうか。

そのとき一人の男が、どこからともなく言ったのだ。
「その染みは、子供の単なるイタズラだ。その濁った点には理由も根拠もなにひとつない。ただ、ほんの少しに興味を抱き、どうにか足掻いてそれらを汚してやろうとした子供の仕業なのだよ」
どうやら詳しく知っていそうなその男に、私はこう訪ねた。
「この染みはいつからあるのですか?」
「ほんの少し前さ。その絵自体は随分前からある」
「こんなにも素晴らしい絵を汚してしまったなんて、なにを考えているのかしら」
「なにも考えちゃいないよ、見ればわかるじゃないか」
そこで会話が止まった。
どこにいるのかとも取れない男が立ち去ろうという気配がした。私は慌てて指を動かす。
「待って下さい。最後にひとつ、この染みはなんの染みですか?」
「その染みかい?私はさっき子供のイタズラだと言っただろう」

「なんの面白みのない話さ。ただの泥だよ」

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